ニュータイプ 2017年6月号
ヤオヨロズの制作ス夕イルは独特。 脚本、 ビデオ
コンテ、 CGア二メ一ション`、撮影のエ程を何度
も行き来し、 作品のクオリティを上げていくとい
う。 「たつきくんは、現場のスタッフのメンタルや
フィジカルまでを把握して映像をつくっている��
監督だけでなく制作進行の仕裏も兼任している感じがあるんてすよ（福原）
（50ページ右下のコメントより）
一貫制作のヤオヨロズスタイル
たつき監督の魅力が伝わったという喜び
― 「けものフレンズ」全12話の放送お疲れさまでした。現在の率直なお気持ちをお聞かせください。
福原
いろいろなプロデューサーが「始まるとあっという間」だとおっしゃっているのを聞いたことがありますが、確かに「あっという間」でしたね。
最初に『けものフレンズ』のお話を僕がいただいたのは2014年3月。そのときにアニメの制作スタジオを決めるコンペがあったのですが、
監督のたつきくんとコンペ用の企画を考えたのは、『てさぐれ!部活もの』の第2期(あんこーる)の制作の後半だったと思います。その後、
アブリ(ゲーム)版「けものフレンズ」がリリースされたのが2015年3月。そこからアニメ版のホン読み(シナリオ打ち合わせ) を始めたことを覚えています。
企画の始まりから先日の第12話の放送まで約3年。すべての放送が終わった後に、こんなふうに評価をいただけるとは思ってもいませんでした。
― たつき監督とヤオヨロズへの注目度も高まりましたね。
福原
僕とたつきくんが出会ったのは2012年の冬コミ(コミックマーケット83)だったんですね。僕はそのころMMD (アニメーション制作ソフト)を使った
企画を進めていたんですが、たつきくんの作品を見たら、MMDではなかなか出せないような温かい絵を描いていて、直感的に『これはいいな!』と感じたんです。
それがきっかけで、たつきくんといっしょにアニメをつくることになりました。当初ヤオヨロズでは「たつきくんの作品の魅力を伝えていくためのロードマップ」
を考えていたんです。そのころ3DCGアニメを1クール全話納品した会社はそれほど多くなかったので、まずは『原作付きの30分アニメをCGできちんと1クール納品する」
ことをひとつ目のゴールにしていました。その次のゴールは「たつきくんのオリジナル作品をつくる』こと。僕らは、たつきくんといっしょに仕事をするうちに、
彼の作品の魅力が温かい絵だけではなくて、ストーリーのおもしろさにあると感じていたんですよ。彼が主宰している自主制作集団のirodoriでも、オリジナルのお話を
つくっているし、その魅力をもっと多くの人に知ってほしかった。そう考えていたときに『けものフレンズ』という、コンセプトデザインの吉崎(観音)先生のもとで
自由にお話をつくっていい、というありがたいお話をいただいたんです。これは挑戦できるんじゃないか?と思って、たつきくんに初監督の仕事として受けてもらいました。
だから、まずは「（3DCGアニメを1クール全話）納品」が目標だったので、こんなふうにヒットするなんて、飛び級みたいなものですよ(笑)。
たつきくんの才能が世の中に受け入れられたという喜びは、プロデューサー冥利に尽きますね。
「けものフレンズ」の未来も、
たつきくんの未来も大事に、
もっとおもしろいことを
― アニメ版『けものフレンズ」のストーリーはどのようにつくっていったものなのでしょうか。
福原
ストーリーは。たつきくん主導ですね。当初『けものフレンズ』はコンセプトが明文化されていなかったので、吉崎先生に質疑応答しながら詰めていきました。
『サンドスター」や「フレンズ化』のディテールや、この世界のフレンズたちが食べているものは何か、といった基本的な設定を吉崎先生に修正していただきながら
つくっていきました。第1話から第12話(最終話)までの展開もたつきくんが考えています。ネット上では考察班の方々が指摘していますが、全捻話と第1話は相似関係になっていて。
かばんちゃんとサーバルが出会い、一度別れた後に再会する流れは、セルリアンと戦うことも含め全12話と同じ。第1話で起きたことを掘り下げたものがシリーズ構成になっているんです。
― これまでのインタビューによると、たつき監督がつくるビデオコンテ（Vコン）でストーリーをつくるというやり方だったそうですね。
福原
今回はそういうやり方でしたね。ウチは作品ごとにワークフローが変わるんです。今回Vコンをつくったのは、吉崎先生が打ち合わせのときに「会話や芝居の間を大事にしたい」
と何度もおっしゃっていたことが大きいです。会話のタイミングを示すタイムシートを見せても「会話の間」はわかりにくいだろうから、だったらVコンをつくっちゃって、
『間』を視認してもらうのがいいだろうと。Vコンに合わせて粗いセリフを組みそれから間尺に合わせて脚本に落とす。そして声優さんたちにキャラクターなりの言い方で
しゃべっていただき、可能ならそれを受けてアニメ側も変更する。アフレコのやり方もおのずと変わっていきましたね。
― 「けものフレンズ」の制作スタイルは、現場のやりとりのなかからでき上がったものだったんですね。
福原
手描きアニメのつくり方はワークフローが固まっていますけど、3DCGのつくり方はまだ確立していない。ウチ(ヤオヨロズ)のメンバーの人数はまだ少ないので、スタッフが
このやり方に付いてくることができたんだと思います。本当はもっとつくり方を洗練させて、大所帯をコントロールできるようにならないといけないでしょうね。
『けものフレンズ』がスタジオの顔になった
― 今回の制作中に印象に残っていることはありますか。
福原
『けものフレンズ』では毎回、完成映像を何バージョンかつくっているんです。こちらとしては、とにかく『納品』の締め切りを守らなくちゃいけないと思っているので、
放送ができる最低限のものを保険としてつくっておいて、そこから締め切りギリギリまで粘ってブラッシュアッブしているんです。僕はたつきくんがブラッシュアップした
新しいバージョンのカットを最初に見る立場なんですが、そのカットを見ているとたつきくんが考えていることが伝わってくるので、すごく楽しいんですよね。
第12話のV編(ビデオ編集＝映像を放送フォーマットに調整する作品の最終工程)のときは編集スタジオに来た製作委員会の方たちが、
「納品の締め切りまで時間があるから、ギリギリまで待とう』とおっしゃってくださって。たつきくんがガンガン更新してくれたカットをみんなで見て
「うーん！ いいな!!」とうなっていました。たとえば、第12話のタイトルロゴが出てくるカットは、その追加で更新されたカットのひとつだったんです。
あのタイトルロゴはまさに見ている人が胸アツになるカットですよね。たつきくんは ああいうカットをギリギリまでつくり込んでくれるから、
僕らもギリギリまで待つかいがあるんですよ。
― 第12話のときは放送前から、ファンがネット上で盛り上がり、放送を待ち望んでいる状態でしたね。
福原
あれはおもしろかったですね。僕のところにもいろいろな反響の声が届きました。たつきくんも吉崎先生もネットに対する理解度が高くて、
ファンとの距離が近いタイプなんですよね。特に、たつきくんはこれまでにニコニコ動画に百本くらい自主制作の動画を上げていて、どういう動画を上げると視聴者から
どんなコメントが付くかを相当熟知しているんです。そのノウハウは「けものフレンズ」にそのまま生かされていると思います。
― 第12話放送後にサプライズとして、12.1話がネット上に配信されましたね。
福原
第12話放送後に行ったトークイベントでも、そのことについて、ファンからたくさん質問がありました。
たつき監督は「ノーコメント」僕は「壮大な同人です」と答えています。
結果的には製作委員会方々には温かく見守っていただいた感じです。
― さて、TVシリーズの放送も終わって、今後の展開についてはどのようにお考えですか。
福原
すでに発表されていますが、 新作映像の制作が決定しています。 こちらとしては重大な任務として進 めていかないといけないなと思っています。
僕としては、「けものフレンズ」の未来も、たつきくんの未来も大事なので、どちらの未来にもいい状況ができるように、今後もおもしろいことを
仕掛けていきたいなと思っています。
― ヤオヨロズにとって「けものフレンズ」以前、以後で変わったものは 何ですか？
福原
僕はずっとスタジオの「絵柄」をもちたかったんですよ。アニメのスタジオはキャラクターデザイナーの個性だったり、アニメーターの個性に合わせて、
スタジオの顔となる「絵柄」をもっていることが多いですよね。今回「けものフレンズ」の露出のボリュームが大きくなったことで、ヤオヨロズの
「絵柄」を確立することができたのかなと思っています。たつきくんがirodoriでつくっていた「らすとおんみょう」という作品の金髪ポニーテールのヒロインがいるのですが、
そのキャラをつくり込んだー枚絵を昔見せてもらったことがありまして、そのとき、たつきくんはイメージ通りの絵ができたようで、とてもうれしそうでした。
僕としてはどことなくサーバルにあの顔が重なっていて、あのビジュアルがファンの方々に広がっていったのはうれしかったですね。
― スタジオの個性がひとつ確立したわけですね。今後、ヤオヨロズを どんなスタジオにしていきたいと思っていますか。
福原
「けものフレンズ」をつくる前は、僕らはそれほど大所帯でもないから、目立たないようにこっそりと力をつけていこうと考えていたんです。そうしたら、
急に日の光が当たってしまった感じがあって。大手のアニメ制作会社に比べたら、僕らは規模も小さいし、ノウハウもたまっ ていないので、
もっと体制を整えないといけないなと思っています。今後はスタッフの人数を増やして、制作をもっと安定させる方向にもっていきたいですね。
そうすれば、もっと新しい作品がつくれると思うので。
― 福原プロデューサーは「けものフレンズ」（アニメーションプロデューサー）の後に「ラブ米 −WE LOVE RICE−」
（総合プロデューサー／ヤオヨロズが企画・原作）を手がけ、作品の幅を広げていますね。
福原
「けものフレンズ」が監督主導の作品だとしたら、僕が進めている「ラブ米」はプロデューサー主導の作品。5分のショートアニメなんですが、
ヤオョロズが企画で、主な製作委員会業務をするなど、ほとんどの プロデュース業務を担当している作品なんですね。たつきくんが
「けものフレンズ」で頑張ったように、僕も「ラブ米」でプロデューサーとして出来る幅を広げることに挑戦していて。 いつの日か
「たつきくんの完全オリジナル作品」を自社幹事でプロデュ ースできればいいなと考えています。
― 皆さんは「けものフレンズ」を通して、次の目標へ進みはじめているところなんですね。
福原
たつきくんは「ものづくり」に不純物を入れない人なんですよ。
彼にあるのは「アニメをつくりたい」という気持ちだけで、食べていくために3DCGでいろいろな仕事をすると考えアニメをつくるという
夢をかなえるためのスタジオなんです。今後もブレることなく、おもしろいアニメをつくっていくことができればと思っています。
PROFILE
●ふくはら・よしただ/
ヤオヨロズ株式会社取締役。
「てさぐれ！部活もの」シリーズや
現在放送中の「ラブ米 -WE LOVE RICE-」
総合プロデューサーを務める
